【チャレンジ連載】ヤレ紙再生プロジェクト《第5回》
デザイナーの皆様、そして日々「もっと面白い紙はないか」と探求されているクリエイターの皆様、いつもお世話になっております!
アイワードでプリンティングディレクターをしております、美(術)男子の浦有輝です。
巨大オクラのネバネバパワーと、機械を欺く印刷技術を駆使して、ついに形になってきたヤレ紙再生プロジェクト。全5回の予定でスタートしたこの連載も、いよいよ今回がラストです(の予定)!
最後のチャレンジテーマは、ズバリ「作った紙をどう活用するか?」
実は私、このプロジェクトを立ち上げた時から「絶対にこれをやりたい!」と心に決めていたことがありました。
それは、写真集などの上製本でよく使われる「題箋(だいせん)貼り加工」を、手漉きの再生紙でやることです。
しかも、四隅がボソボソとした「四方耳付き」の状態で。
そんな題箋、今まで見たことがないし、何より絶対カッコいいじゃないですか!
しかし、理由は「見た目」だけではありません。
環境負荷を軽減させるため、製紙メーカーやインキメーカー各社は様々な企業努力をされています。カーボンオフセット、FSC認証用紙、植物性油インキ……。
しかし、個人的にはもっとダイレクトに「環境に貢献できている!」と実感できることってないのだろうか?と考えたい。
だからこそ、このヤレ紙再生プロジェクトに行き着いたのです。
「製本する際に出る『端材(ヤレ紙)』を集めて自社で再生し、それを題箋という『オプション品』として、造本の中に組み込む。」
これが達成できれば、アイワードは胸を張って「SDGsだ!」と言えるはず。
そんな野望を抱きながら、最後の実験スタートです!
■実験①:B7判サイズの四方耳付き紙と、山本くんの「神技」
まずは、題箋に丁度いいサイズ(B7判程度)の四方耳付き用紙の製造です。
既存のハガキ用手漉きシートの中央に間仕切りをつけて漉いてみたところ、見事に2枚同時に作ることに成功しました! 「この方式なら、量産できるかも……」と、夢が広がります。

さらに、前回成功した「両面テープを使った透かし」ですが、この極小サイズの題箋に透かしの文字を入れるため、弊社の職人である山本くんに両面テープのカットを依頼しました。
すると、細かい文字を狂いなく切り出す、紙技ならぬ「神技」を発揮!
ここは完全に山本くんの気合と根性と手作業という名のマンパワーでクリアしました。

■実験②:水分厳禁!「膠(にかわ)」とお鍋事件
さあ、次は自前で作ったドイツ装の束見本に、この四方耳付き題箋を「貼る」工程です。
問題は「糊」の選定。水性の糊やボンドを使うと、紙が水分を吸って反り返ってしまいます。
これまでの実験で「水分は紙に悪さをする」と痛いほど学んだ私は、
「ここはもう、膠(にかわ)一択でしょう!」と決断。
さっそく近所の上製本屋さんから膠をいただいてきました。
しかし、ここで事件発生。
弊社では普段、膠を使っていないため、そもそも塗布する専用の保温設備がありません。「まあ、ヒーターで溶かせばいけるっしょ」と、花柄のお鍋に膠を投入し、コトコト煮込み始めました。
「昔、こんなお鍋でよく魚の煮付け作ったなぁ…」などと郷愁に浸りながらかき混ぜていると……いつの間にか膠が、魚の煮付けと同じくらいの濃い茶色に!しかも、とんでもなく臭い!!
「まあ、料理だって焦げてメイラード反応が起きたほうが美味しくなるし、接着力も上がるっしょ!」と謎のポジティブシンキングを発揮してハケで塗布するも……。
「……全然くっつかないじゃん!!」
鍋は焦げ付くし、激臭は漂うし、題箋は剥がれるしで大惨事。

調べてみると、膠は「適正な温度で保温し続けなければ、しっかり接着できない」という性質があるとのこと。
最初から調べてやりなさいよって話ですよね。
自分でもそう思います。
■ついに完成!……そして製本部長の冷酷なツッコミ
反省を生かし、上手く温度調整(60℃くらい)した膠をハケですくい、題箋用紙に素早く塗布して束見本に貼り付けます。

すると……! 反りも全くなく、ガッチリと接着!
商品としてなんら遜色のない、めちゃくちゃカッコいい「四方耳付きの題箋貼り」が完成しました!

「よし、これでいよいよアイワードの新商品ラインナップに入れられるぞ!」
製本部の皆と感動を分かち合っていたその時です。製本部長がボソッと呟きました。

「いやいや、誰って……製本部の皆さんですよ! いやー本当にお疲れ様でした!」と爽やかに帰ろうとした私。
しかし、製本部長にガシッと腕を掴まれ、こう言い放たれました。
「この工程『全て手作業』だぞ。こんなの、値段なんかつけられないよ。」
……はい。薄々は勘付いておりました(笑)。
ヤレ紙の粉砕、オクラのネバネバ抽出、紙漉き、透かしの両面テープカット、乾燥、印刷のセッティング、糊の温度管理と塗布……ぜーーんぶ、手作業です。
「1点ものの作品」としては、これを完成にして良いかもしれません。手作りならではの風合いや価値も十分にあります。
しかし、我々は「印刷業」を生業としています。印刷業者の役割とは、「広く多くの方にお届けすること」です。
量産できる仕組みを作ってこそ、社会的責任を果たしたと言えるのです。
紙作りを通して、印刷業の根幹たる役割を、まさかこんな形で思い知らされることになるとは……。
■延長戦突入! 次回からの「ヤレ紙再生プロジェクト」
というわけで、第5回目で華麗に完結するつもりだった今回のコラム。
肩の荷が下りたと思いきや、「工業製品として成り立たせる」という、さらに重たく、しかし果たさなければならない使命が見えてきました。
目標は、仮に300枚製造するなら……
・紙漉き:半日
・印刷:1時間
・透かしの版作り:機械化
・糊加工:半日
このくらいを目処に効率化しないと、商品としては展開できません。
皆様、次回からは「工業製品化への試行錯誤期間」をしばらくください!
次回の配信がいつになるかは明言できませんが、数々の壁をクリアして、必ずまたご報告させていただきます!
今後とも引き続き、ヤレ紙再生プロジェクトを応援していただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします!
(いつかの第6回へ続く…!)