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公開:2026/08/20

オクラの力と天日干し! ついに「紙」が完成
― そして「印刷の壁」にぶち当たるの巻 ―

サブテーマ : その他



【チャレンジ連載】ヤレ紙再生プロジェクト《第3回》 


デザイナーの皆様、そして日々「もっと面白い紙はないか」と探求されているクリエイターの皆様、
いつもお世話になっております!
アイワードでプリンティングディレクターをしております、美(術)男子の浦有輝です。
 
前回の第2回では、製紙メーカーのプロたちからアドバイスをいただき、ミキサーとプロ用紙漉きシートを導入。ようやく「紙」と呼べるものはできたものの、
強度不足と乾燥時の「反り(カール)」という大きな壁が残りました。
 
そこで今回は、その課題をクリアして「強く平滑な紙」に一歩近づけること、
そして完成した紙に印刷してみます。
果たして、ヤレ紙は本当に”使える紙”になれるのだろうか。

 

■前回の課題に再挑戦! オクラとすり鉢が起こした奇跡

 
前回、製紙メーカーの皆様から教えていただいた改善ポイントは、「ネリ(粘剤)」と「叩解(こうかい)」でした。
 
そこで、北海道では育たないトロロアオイの代わりとして育てていたオクラ……のはずだったのですが。
工場の脇で育てていたオクラは、まだまだ苗。そりゃもう全然苗です。
 
「待っていられない!」
ということで、近所のスーパーへ向かい、金銭で解決しました。
ここはもう、こだわるところじゃないと自分に言い聞かせます。
輪切りにしたオクラを40℃のぬるま湯に丸一日浸して、ガーゼで濾します。
そして、抽出したネバネバを投入すると、どうでしょう!
今まで沈んでいた繊維が、まるで無重力空間にいるように水中をゆっくり漂い続けるではありませんか!
 



おかげで繊維が偏らず、均一な厚みの紙を漉くことに成功。
オクラ、お前ってやつは……最高だ。
 
さらに今回は、前回見送っていた「叩解」にも挑戦しました。
 
ミキサーで細かくした繊維を、さらに「すり鉢」でゴリゴリと叩き潰し、繊維の端を毛羽立たせます。この毛羽立ちが繊維同士の絡み合い(水素結合)を強め、紙の強度につながるのです。
 

 
果たして効果はあるのか。
 
そこで、完成した紙を、印刷会社ならではの計器「引っ張り強度計」(普段はPUR糊などの接着強度を測る機械)で測定してみました。
 

 
なんと市販のバージンパルプ用紙と大差ない数値を記録!
すり鉢の物理攻撃、恐るべし。

 

■「反り」の壁も、太陽光でまさかの解決

 
残る課題は、乾燥すると紙がグニャグニャに反ること。
アイロンをかけたり、いろいろ試していたのですが、天気の良い日に外に出して天日干ししてみました。
 


すると、たった2時間でしっかり乾燥。
しかも、全く反りのない、ピシッと平らで立派な紙に仕上がったのです。
 
太陽の熱と自然の風が、均一に水分を飛ばしてくれたのでしょうか。
 
理由はまだ検証が必要ですが、とにかく結果は大成功。自然の力ってスゴい。
均一な厚み、十分な強度、そして反りのない平滑性。
ここにきて、ついにヤレ紙を納得できるレベルの紙に生まれ変わらせることができました。

 

■この紙は「使える紙」なのか?

 
紙が完成したら、プリンティングディレクターとして次にやることは一つ。
 
「印刷」です。
 
「ついに最高の紙ができた! さっそく印刷してみよう!」と社内のレーザープリンター(オンデマンド機)へ投入。
反りがないので機械の中をスムーズに通っていきます。
 


ところが……、出てきた紙を見て愕然。
 
ムラッムラやないか。しかも、テッカテカ。
 

手漉き紙とレーザープリンターは相性が悪い

 
なぜこんなことになったのでしょうか。
私たちが作った紙は、手漉きならではの素朴でざらっとした凹凸(風合い)があります。
レーザープリンターはトナー(粉)を熱で紙の表面へ定着させる印刷方式のため、紙の「凹」の部分までトナーが届かず、印刷ムラが発生。
さらにトナー特有のテカリが紙全体を覆い、せっかくの手漉き紙らしい風合いが完全に消え、印刷した部分がプラスチックのような質感になってしまいました。
 
紙としては成功。
でも、印刷すると魅力が消えてしまう。
 
ここで初めて、「紙を作ること」と「印刷に適した紙を作ること」は別の課題なのだと痛感しました。

 

やはり質感のある印刷にはオフセット印刷だ

 
「こうなったら、やっぱりオフセット印刷!」
オフセット印刷なら、液状のインキがゴム胴(ブランケット)を介して紙の凹凸にもしっかり馴染み、紙本来の質感を活かしたマットな仕上がりが期待できます。

 
しかし、
ここで設備の壁が立ちはだかります。
 
私たちが作れる紙は、木枠の都合でせいぜいB5サイズ程度。
 


一方、アイワードの工場で稼働しているオフセット印刷機は、菊全判や四六全判を印刷する超大型機ばかりです。
 

 
……B5サイズの手漉き紙では、小さすぎて機械に通せない。
 
オフセット印刷の美しさを誰よりも知っているプリンティングディレクターが、自分たちで作った紙を、自社のオフセット印刷機にかけられないなんて!
なんというジレンマ……。
 

■今回の実験で分かったこと

 
今回の実験で分かったのは、
「紙を作ること」と「印刷できる紙を作ること」は、まったく別の挑戦だ
ということです。
 
オクラ、叩解、天日干しによって、紙そのものの品質は大きく改善しました。
しかし、その紙の魅力を印刷で活かすには、紙だけでなく印刷方式や設備との相性まで考えなければならない。
紙づくりはゴールではなく、印刷まで含めて初めて「素材」として完成する。
そんなことを実感した第3回でした。
 

■次回への挑戦状! 第4回に向けた対策

 
現在0.2mm前後しか出せない紙の厚み、これをどうにかしたい。
オリジナルのハガキとして使うには、もう少し厚みが欲しいところです。
さらに、せっかくできたこの紙を、どう印刷し、どうデザインに活かしていくのか。
次回は、この2つをテーマに検証していきます。

① 0.2mmの壁を越えられるのか?
② この風合いを活かせる印刷・加工方法はあるのか?
③ 大型オフセット機に頼らず、この紙の魅力を最大限に引き出す方法とは?

 
オクラの力で、ようやく「最高の素材」が見えてきたヤレ紙再生プロジェクト。
果たして、この紙にどうやって「デザイン」という命を吹き込むのか。
第4回も、泥臭く検証していきます。どうぞお楽しみに!
(第4回へ続く)

 



 


[執筆] 浦 有輝 (うら ゆうき)

アイワード東京第二営業部の取締役部長兼、プリンティングディレクター
新卒でアイワードへ入社後画像処理部門で従事したのち、北海道から東京の営業部門へ異動。 新規開拓チームとして美術館の図録などを多く手がけており、毎週北海道と東京を行き来する2拠点生活を20年間続けている。 クライアントには美術館の他に、アパレルメーカー、家具メーカー、デザイン業界、美術に関わる出版社などがある。