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公開:2026/07/22

「飾るもの」から「読むもの」へ
― デジタル時代に“紙の社史”を残す価値  ―

サブテーマ : 社史・記念誌



【本コラムは、2026年2月6日の「社史・経営者伝 札幌展」でご講演いただいた、九州情報大学 中小企業経営研究センター 客員研究員の佐藤俊恵先生にご執筆いただき、全12回で特別連載します。
いよいよ最終章となる【第3章:実践と未来への継承(第8回~第12回)】では、これまでの歴史を振り返る視点から一歩進み、社史をこれからの経営の羅針盤としてどう機能させるか、具体的な活用術に迫ります。


【特別連載】社史は企業資産~未来のパーパスを創る歴史の読み解き方~《最終回/第12回》 


 第11回では、企業の歴史は、物語として語られることで人の心を動かし、社員やステークホルダーの共感を生み出すことを見てきました。
 では、その物語を一時的な発信で終わらせず、未来へ受け継いでいくには、どうすればよいのでしょうか。
 現代は、ウェブサイトや動画、SNSなどを通じて、企業の沿革や活動を発信しやすい時代です。情報をすばやく届けるという点では、デジタルメディアには大きな利点があります。一方で、情報は更新され、置き換えられ、時には流れていくものでもあります。
 だからこそ、企業の歩みをどのような形で残すのかという視点が重要になります。



 

■企業の歴史は自然には残らない──意識的に歴史を残すということ

 
 企業の歴史は、自然に残るものではありません。創業時の志、危機に直面したときの判断、支えてくれた取引先や地域社会との関係、社員一人ひとりの努力。そうした出来事は、記録しなければ、時間の経過とともに少しずつ失われていきます。
 アメリカの企業では、社外の専⾨家を活⽤してでも社史を出版するケースがあると言われています。世襲制が⼀般的ではない環境において、過去の教訓から学び、意識的に歴史を残す⽂化が重視されてきたためでしょう。
 ⽇本でも、事業承継が課題となる中で、自社の歴史をどのようにつないでいくかは、企業の持続可能性を考えるうえで、ますます重要になっています。残る会社とそうでない会社の差は、過去から何を学び、それをどのように未来へつなぐかにも表れてくるのではないでしょうか。

 

■デジタル時代に「紙の社史」がもつ重み

 
 情報を残す媒体選びも大切です。現代では、ウェブサイトに沿革を掲載することも、動画やデジタルアーカイブで企業の歩みを伝えることもできます。しかし、デジタルは更新しやすい一方で、置き換えられやすいメディアでもあります。
 会社の軌跡やDNAを未来へ継承するうえで、“紙の社史”には独自の価値があります。自分の名前や肩書、写真が載った一冊の本を手にすることは、社員にとって、自分もまた会社の歴史の一部であると実感する機会になります。そこには、情報の共有を超えた重みや喜びがあります。
 もちろん、紙であればよいということではありません。大切なのは、社史を単なる記録集で終わらせないことです。完成した社史を、ただ関係者に「配るもの」や社⻑室に「飾るもの」で終わらせてしまえば、その価値は十分に活かされません。
 社史は、⾃社がどこから来て、何を大切にし、何を未来へつなごうとしているのかを伝えるものです。パーパスをシェアするためには、社史をストーリー性のある「読むもの(メディア)」へと変えていく意識が必要です。
 社史は、記念として、あるいは懐古するためのものではありません。自社の歴史の中にある志を見出し、パーパスを顕在化させ、社員やステークホルダーと共有し、未来へ受け継いでいくためのものです。社史が読まれ、語られ、活用されるとき、それは記録を超えて、企業の持続可能性を高める「企業資産」となります。
(了 )


[執筆] 佐藤 俊恵 (さとう としえ) 氏

九州情報大学 中小企業経営研究センター 客員研究員/博士(政策学)
法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了
専門分野はソーシャル・ビジネス、パーパス論、ステークホルダー論


著書のご紹介:『日本のソーシャル・ビジネスの持続可能性』 (中央経済社)

パーパスに着目し、組織とステークホルダーが相互作用を生み出す関係性を探求。ソーシャル・ビジネスの持続可能性を支えるメカニズムを明らかにし、新たな理論的枠組みを提唱している。




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