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公開:2026/08/06 ( 2026/08/25 更新 )

紙づくりのプロたちからの神託! プリンティングディレクターが挑む「紙の科学」
― ネリの秘密を知るの巻 ―

サブテーマ : SDGs



【チャレンジ連載】ヤレ紙再生プロジェクト《第2回》 


デザイナーの皆様、そして紙を愛してやまないクリエイターの皆様、いつもお世話になっております!
アイワードでプリンティングディレクターをしております、美(術)男子の浦有輝です。
 
前回の第1回コラムでは、ヤレ紙(損紙)をドリルで強引に攪拌した結果、室内に繊維をぶちまけ、完成品は「紙」とは程遠い“謎の灰色のダマダマな物体”に成り果てました。
 
とはいえ、このままではプリンティングディレクターとしてのプライドが丸つぶれです。
そこで今回は、前回の失敗の原因を突き止めるべく、日本を代表する紙づくりのプロたち
─日本製紙様、平和紙業様、大王製紙様に直撃し、アドバイスをいただきました。
 
その助言をもとに「本当に紙らしい紙」が作れるのか、再チャレンジです!
 
普段、皆さんが何気なく見本帳から選んでいる『紙』。実はあれがどれだけ緻密な科学と技術の結晶なのか……ヤレ紙から自作してみて、身をもって痛感しました。
今回は、商業印刷における紙の凄さをプロ目線でお届けします!

 

■製紙メーカーに聞いた「紙づくりの科学」

 
前回の失敗をお話しすると、皆さん苦笑いしながらも、制作事例ではなかなか聞けない「紙の科学」を教えてくださいました。
 


特に目から鱗だったのが「ネリ」の役割です。
 
私は勝手に「紙を固めるためのもの」だと思っていたのですが、実はそうではありません。
ネリは水の粘度を上げ、繊維が沈まないように水中をふわふわ漂う状態をつくるためのもの。
これがあることで繊維が均一に絡み合い、きれいな紙になるそうです。
 
「なるほど、それならトロロアオイを育てよう!」
……と思ったのですが、「北海道では育ちにくいですよ」「その前に畑の草刈りからですね」という現実を突きつけられ、秒速で断念。
 
しかし、ネバネバ成分が必要なら同じアオイ科でいけるのでは? ということで、
現在はオクラの栽培にチャレンジしています!
頼むぞ、オクラ。

 

■今回の実験! ミキサーとプロ用紙漉きシートを投入

 
今回の実験で試したのは、プロから教わった改善策のうち次の2つです。

●ミキサーで繊維を細かくほぐす
●プロ用紙漉きシートで均一に脱水する
 
まずはヤレ紙と水を、家庭用ミキサーへ投入。
スイッチを入れると、ドリルとは比較にならないほど滑らかに繊維がほぐれていきます。
やっぱり文明の利器ってすごい。
 

 
続いて、日本製紙様からお借りした紙漉きシートにミキサーでほぐした手作りパルプを流し込み、
漉いてみました。
すると、水がスーッと均等に抜け、シートの上にはムラの少ない繊維層が形成されました。


 
「これは、もしかして……?」
期待しながら乾燥させてみます。


 

■実験結果:ついに「紙」っぽいものが爆誕!

 

 
まず驚いたのは、見た目です。
前回の「謎の灰色のダマダマ物体」から一転、ちゃんと「紙」と呼べるものになりました。
繊維が均一に分散し、光に透かしても美しい。
ミキサーによる解繊と、紙漉きシートによる均一な脱水の効果を実感しました。
デザイナーの皆さんにも胸を張って見せられる素材に、一歩近づいた気がします。
 

まだ残ってしまった課題

 
一方で、「紙らしい見た目」と「商業印刷で使える紙」の間には、大きな壁がありました。

◎強度不足

今回はまだ「叩解」も「ネリ」も試せていません。
そのため引っ張り強度はバージンパルプの約半分程度。少し力をかけるだけで簡単に破れてしまいました。
古紙再生を繰り返すと繊維が短くなり強度が落ちる――そんな現象を、身をもって実感しました。

◎サイズが小さい

お借りした紙漉きシートはハガキサイズ。
きれいには作れましたが、普段B1やA1といった全判サイズを扱っているプリンティングディレクターとしては、「もっとデカい紙が作りたい……!」という欲求が、むくむく湧いてきます。

◎最大の敵は「反り」

そして、一番の難敵がこれ。
乾燥すると、紙がめちゃくちゃ反る。
水分が抜ける際に繊維が収縮し、紙全体がカールしてしまうのです。
私たちプリンティングディレクターにとって、「反っている紙=印刷機に通らない=絶対悪」。
いくら風合いが良くても、印刷機を通せなければ商業印刷の素材としては使えません。
 

 

■今回の実験でわかったこと

 
今回の実験でわかったのは、ミキサーによる解繊とプロ用紙漉きシートだけでも、紙の見た目や均一性は大きく改善できるということでした。

一方で、商業印刷に耐えられる紙にするには、それだけでは不十分です。

繊維をしっかり叩解すること、ネリで繊維を均一に分散させること、そして乾燥時の反りを抑えること。
紙づくりは、どれか一つではなく工程全体の積み重ねなのだと実感しました。

■次回への挑戦状! 第3回に向けた対策

 
次回はいよいよ、今回まだ試せていない改善策に挑みます。

① オクラの粘液は、本当にネリの代わりになるのか?
② 最終兵器「すり鉢」で叩解すると強度はどこまで上がるのか?
③ 印刷機を通せる「反らない乾燥方法」は見つかるのか?
④ オクラの粘液と洗濯糊、強度アップに効くのはどっちだ!?

 
果たしてヤレ紙は、「デザイナーの好奇心を刺激する新たな紙素材」へと進化できるのか。
そして、オクラは無事に育つのか!?
次回の実験記録も、どうぞお楽しみに!

(第3回へ続く)

 



 


[執筆] 浦 有輝 (うら ゆうき)

アイワード東京第二営業部の取締役部長兼、プリンティングディレクター
新卒でアイワードへ入社後画像処理部門で従事したのち、北海道から東京の営業部門へ異動。 新規開拓チームとして美術館の図録などを多く手がけており、毎週北海道と東京を行き来する2拠点生活を20年間続けている。 クライアントには美術館の他に、アパレルメーカー、家具メーカー、デザイン業界、美術に関わる出版社などがある。