本コラムは、2026年2月6日の「社史・経営者伝 札幌展」でご講演いただいた、九州情報大学 中小企業経営研究センター 客員研究員の佐藤俊恵先生にご執筆いただき、全12回で特別連載します。
【第1章:マインドセットの転換(第1回〜第4回)】では、社史を「読む価値無し」から「資産」へと再定義し、企業の存在意義(パーパス)が歴史の中でどのように進化していくのか、その本質に迫ります。
【特別連載】社史は企業資産~未来のパーパスを創る歴史の読み解き方~《第1回》
企業の節⽬に制作されることの多い「社史」。
皆様の会社にも、書棚の奥でホコリを被っている分厚い社史がないでしょうか。
社史の多くは非売品であり、関係者への配布を前提として制作されます。
そのため、ともすれば「記念品」や「お土産」のように受け取られ、じっくり読まれる機会を持ちにくいのも現実です。
こうした事情から、社史はしばしば「著者無し、定価無し、本屋無し」に加えて、「読者無し、読む価値無し」という「五無し」1)と揶揄されることがあります。
制作には多⼤な費⽤と時間がかかるため、単なる「コスト」として捉えられがちなのも事実でしょう。
しかし、社史は本当に、読む価値のない単なる過去の記録なのでしょうか?
■⼀過性の記録から、企業の魂を伝える「知の遺産」へ
これからの社史は、創立記念などの節目に制作して終わるものではなく、未来へ受け継がれるものであるべきではないでしょうか。創業時の志、挑戦の軌跡、そして幾多の困難を乗り越えるなかで培われてきた価値観を伝えていくことができるなら、社史は未来の世代にとっての「道しるべ」となり、一過性の記録を超えて、企業の魂を伝える「知の遺産」となります。
また、⾃社の歴史を振り返ることは、組織の存在意義としての「パーパス」を再確認することにもつながります。パーパスを社内外にシェアするためのメディアとして社史が機能するとき、社史は将来にわたって価値を生み続ける「企業資産」へと⽣まれ変わります。
■「飾るもの」から、ストーリーのある「読むもの」へ
社史を、関係者に「配るもの」、あるいは社⻑室の本棚に「飾るもの」で終わらせてしまっては、社史の真価が発揮されません。⾃社が誰のために、何を実現しようと歩んできたのかという「物語(ストーリー)」を伝え、社員や取引先、地域社会をはじめとするステークホルダーとパーパスを共有するための「読むもの」として活かしていくことが大切です。
社史を通して⾃社の存在意義(パーパス)を再確認し、それを未来へ語り継いでいく。そのプロセスが、企業の持続性を⾼めることにつながります。
(第2回へ続く) 2026/5/13更新予定
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[注]
1)社史の「三無し」および「五無し」については、 近江(1996)や四宮(2000)などを参照。
[参考文献]
近江哲史(1996)「社史はどのようにつくられているか」『出版研究』(27), pp.87-112.
四宮俊之(2000)「社史 (書) 編纂の目的と意義をめぐって: それは何故に編纂されるのか」『人文社会論叢.社会科学篇』 (4), pp.21-32.