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約物の分類のしかたには様々なものがありますが、分
かりやすさを重視しつつ、本誌独自の分類をしてみまし
た。こうして、一つひとつの役割を見てみると、普段な
にげなく使っている約物の意味合いは非常に大きいもの
であることが分かります。
これらの約物の役割を総括すると、その主要な目的
は、「文の内容・構造を視覚的に分かりやすくし、読解
を補助すること」です。しかし、これらを文中のどこに
置くかによっては、逆に文章を読む上で無意味な「引っ
掛かり」になってしまうことが考えられます。
そこで必要になるのが、次項で詳しく紹介する「禁
則」というルールです。
繰り返し点(ゝヽ々)は、直前の文字の「繰り返し」
を意味する記号、その他のものは特定の単語を省略した
記号です。繰り返し点に関しては、書き文字の風習を踏
襲したもので、他の約物に比べると、特筆すべき効用が
ありません。それ以外の省略記号は、「文字数の減少」
「簡略化」などの効用があります。
前述したように、多くの約物は文字の成立
と同時に生まれたわけではなく、文字や文体
が変化していく過程で、必要に応じて増えて
いきました。約物の一つひとつに意味があ
り、それぞれが文中で文や単語を
「区切る」「くくる」「繋ぐ」「省略する」
といった役割を果たしています。それぞれの
役割や特徴について見ていきましょう。
文を記述する際に用いられる記号の中には、「行頭に置いてはいけない」な
ど、特別なルールが約束されているものがあります。これらの記号は「約物
(やくもの)」と言って、かつては印刷用語で「締めくくるもの」という意味が
あったようです。
記号の中でも「※○△□」などのように、特別なルールがないものを「印物
(しるしもの)」と言いますが、これらの記号も含めて「約物」とすることもあ
ります。
約物 って ナン
だ
!
?
文節や単語間で区切る役割を果たします。ここに挙げた
約物の中で、疑問符(?)と感嘆符(!)以外の約物は、1
字分の幅(縦組みでは高さ)がなく、前や後ろに余白を
とって 1 字分とします(詳細は本誌 1 号の P 8-9『組版に
おけるアキの意味を考える』を参照)。
それぞれの区切りの強度には差があって、例えば、句点
と呼ばれるマル(。)、ピリオド(.)は、いずれも一つの
文の終わりに入れるものです。よって、この中では、一番
区切りの強度が強い約物と言えます。
さらに、句点以上の強度で区切りを付けたいという場合
には、約物を入れて文を続けるのではなく、次の行へと改
行し、新しい段落を作ることになります。つまり、区切る
役割を持った約物は、改行・改ページ・章などの「大きい
区切り」に対しては、「最小単位の区切り」と捉えることが
できるわけです。
マルやピリオドとは逆に、この中で区切りの強度が最も
弱いのは、中
なか
黒
ぐろ
(・)です。例えば、中黒は「リズム・ア
ンド・ブルース」というように、外来語をカタカナで表記
した場合にも使われます。この場合は単語間を区切る役割
だけでなく、繋ぐ役割も兼ねていることになるため、句読
点などに比べると、区切りの強度が弱いことになります。
主な区切る約物
、。,.・:;?!
「かっこ類」と呼ばれるもので、ほとんどの場合、二
つで一対という扱いをします。文中で、くくりたいもの
の前後に入れると、くくられたものが、文中で独立した
扱いになります。
始まりに入れるものを「起こし」、終わりに入れるも
のを「受け」と言い、これらを単独の約物として捉えた
場合には、前後の文字に対して、区切る役割を持ってい
ることになります。
そのため、それぞれの約物は、句読点などの区切る約
物と同様に、半角分の幅(縦組みでは高さ)となってお
り、前後の余白を含めて 1 字分とします。
かっこ類もそれぞれの区切りの強度に差があります。
出版社や書籍ごとに扱いが異なる場合が多いので、一概
には言えませんが、一般的には、かぎかっこ(「 」)や
ダブルミニュート(〝 〞もしくは〝 〟)は、会話文や強
調したい語句に使われることが多く、区切りの強度が強
い傾向にあります。
一方、かっこ(( ))や山がた(〈 〉)などは、本文に
付随する、補足的な内容を記述する際に用いられること
が多いため、他のかっこ類に比べると、区切りの強度が
弱い傾向にあると言えます。
主なくくる約物
「 」『 』‘ ’ “ ”" "
( )【 】〔 〕[ ]〈 〉
主な省略する約物
ゝヽ々%¥@〒#$
主な繋ぐ約物 ─ …
前後の文や単語を繋ぐ役割を持っています。「区切る約
物」の中で紹介した中黒とは異なり、区切る性質は弱いた
め、いずれも全角の幅(縦組みでは高さ)となっています。
ここに挙げたダーシ(─)と 3 点リーダー(…)は、
文や単語を省略する際に使用されることもあり、「─」
「……」というように、2 字分で使われることが多いとい
う共通点もあります。