ユニオンフラッグの変遷 13 土地柄から探る嗜好 緯度は地表のある地点を示すための座標軸の 1 つです。赤 道の地点が 0 度、赤道から最も遠い地点が 90 度で、赤道を境 界線として、北緯と南緯に分けられます。 今回ご紹介するイギリスは、北緯 50~60 度に位置する北の 国なので、赤道からは比較的遠い地域にあるといえます。この ように、比較的緯度が高い地域は、北緯・南緯にかかわらず、 太陽光の青みが強くなるという性質があります。このような地 理的な自然現象も一因にあってか、イギリスでは、古くから青 い色が好まれ、国旗・紋章・陶磁器など、さまざまなものに印 象的な青が使用されています。 西暦1世紀に古代ローマ軍が、ブリタニア(現在のイギリス) に侵攻した時に、そこに居住していたケルト人が、植物のウォー ドから作った染料で、体を青く塗って戦ったと言われています。 つまり、青は、イギリスの土地に深く根付いた特別な色でもあ るのです。 また、イギリスで生まれた色には、オックスフォード・ブルー、 ケンブリッジ・ブルー、ネービー・ブルー、ロイヤル・ブルー、 ジャスパー・ブルー、と青系統の色が多くあるのも特徴的です。 イギリスの伝統的な模様 イギリスらしい模様といえば、どのようなものを思い浮かべ るでしょうか。今では、世界中でポピュラーな柄として、衣類 をはじめ、あらゆるものに用いられているため、ピンとこない 方もいるかもしれませんが、タータンという柄は、イギリスで 発祥した伝統的な模様です。 タータンは、古くからスコットランドに伝わる伝統的な模様 ですが、そこに居住していたケルト人が、文字を持たない民族 であったため、その起源は多くの謎に包まれています。当時の スコットランドは、アルバと呼ばれ、そこに居住するケルト人 のことを、ローマ人はピクト人と呼んでいました。 ピクトの語源は、ラテン語の「ピクトール(絵描き)」、「ピ クトゥラトウス(彩色された)」という言葉に由来すると言わ れています。なぜ、そのように呼ばれたのかは、諸説あります が、ローマ人が対面した、スコットランドのケルト人は、既に タータンを作る技術を持っていたからではないかという説もあ るのです。 スコットランドのケルト人たちにとって、タータンは一族の 団結を表す特別なものとして扱われ、氏族・一族ごとに異なる パターンのタータンをあしらった、チュニックやショールをま とったといわれています。これは日本でいうと、家紋のような ものですが、タータンは、日常的に用いられる「クラン・ター タン」、正装用の「ドレス・タータン」、狩猟用の「ハンティン グ・タータン」、葬儀用の「モーニング・タータン」など、時 と場合に合わせて、さまざまなものが使い分けられていました。 1  7  4  5 年には、スコットランドのスチュワート一族が、イン グランドに対して反乱を起こし、タータンの着用が禁止されま す。この禁止令は 1  7  8  2 年に撤回されるのですが、タータンが 世界に波及するのは、19 世紀に入ってからのことで、現代の 私たちが目にする、その多くは、それ以降に新たに作られたも のです。ちなみに、スコットランドでは、タータン以外にも、 シェパードチェックやグレンチェックといった柄が生まれてい ます。 特別な紫 フランス語で「葵 あおい 」を意味する「モーヴ」という紫の色材は、 1  8  5  6 年にイギリスの学生だったウィリアム・パーキンが実験 中に偶然発見した合成染料です。偶然とはいえ、これが世界で 初めての合成染料だったので、彼は一大快挙を成し遂げたこと になりました。 また、この時に作られた色材が、紫であったことにも大きな 意味があります。というのも、天然の色材において、紫という 色は、希少価値が高く、財力のある上流階級の人々のみが使う ことができた色だったからです。 人工的に作ることが可能となった紫は、急速に一般層へと普 及していきました。また、モーヴには、「ヴィクトリアン・モー ヴ」などの別名があります。これは、ヴィクトリア女王が、公 の席で度々、このモーヴの染料を使った紫のドレスをまとって いたためで、当時の流行色ともなりました。近年では、ロンド ンオリンピックのメダルのリボンにも、モーヴが使用されてい ました。 1st trip イギリス編 世界には、それぞれの国の異なった環境や文化を反映した、さまざまな色彩 文化があります。バラエティーに富んだ色彩文化のことを探ってみるだけで も、世界を旅するような気分が味わえますよ。 初代ユニオンフラッグ イングランド スコットランド 初代ユニオンフラッグ アイルランド 現行ユニオンフラッグ 色んなタータン