2025年7月 第26号(通巻372号) Book Stories 本づくりのさきにあること─。 『日高山脈襟裳十勝国立公園誕生 北海道の脊梁 日高山脈』 【編著者】黒川 伸一さん ほっかいどうの本    『日本サブカルチャーと危機 死と恐怖の表象史』北海道大学出版会 『石炭挽歌 NHK 札幌放送局〈炭鉱事故〉担当アナウンサーの記録』寿郎社 『その花可憐に色青し 北海道亜麻物語』共同文化社 札幌の短い夏を楽しむ特別な一夜 「カルチャーナイト」を企画・運営する   ─ 認定 NPO 法人カルチャーナイト北海道 特 集 北海道の印刷出版文化情報誌 クォータリーアイワード Quarterly 季刊アイワード
年に一度だけ、夜間に美術館や博物館などさまざまな施設を開放し、普段は入る機会のない放送局や気象台なども自由 に見学できる「カルチャーナイト」は、20年以上にわたり開催され、札幌の夏の風物詩といえるイベントの一つです。子 どもだけでなく大人にとっても、非日常体験を楽しみながら、郷土の歴史や文化、産業、それらを支える人々の営みを 知る機会になっています。産官学民の多様な主体が参画するカルチャーナイトの歩みや魅力などについて、実行委員会 事務局を担う認定NPO法人カルチャーナイト北海道の山本強理事長(北海道大学名誉教授)、畑瀬亜紀子事務局長ら関係 者の皆さんに聞きました。 (文・写真/片山健一 取材日2025年6月4、26日 ※クレジットの記載がない各プログラム写真は全てカルチャーナイト北海道の提供です) 特 集 札幌の短い夏を楽しむ  特別な一夜  「カルチャーナイト」を企画・運営する ── 認定NPO法人カルチャーナイト北海道 2018 年に赤れんが庁舎前で開かれた実行委員会企画「マジックアワー・ライブ」 第 26 号 Quarterly 2
札幌で2003年に始まった「まちの文化祭」みんなで創る「まちの文化祭」、それがカルチャーナイトです。夜間開放された公共施設や企業の施設を市民や観光客が訪問し、日常では入れない時間帯に施設の裏側を見学したり、特別な文化プログラムを体験したり、現場で働く人たちの話を聞いたりして、まちの魅力を発見するイベントです。札幌のカルチャーナイトは、2003年 7 月 25 日に初めて開かれ、それ以来 23 年間、学校の夏休み カルチャーナイト北海道の 山本理事長 カルチャーナイト北海道の 畑瀬事務局長 の直前、 7 月後半の金曜日に毎年開催し、子どもたちは“親公認の夜更かし”を満喫します。これまでに参加した施設・団体数は累計2261。一般参加者は来場者数とオンライン動画再生回数を合わせると延べ 52 万4975に上っています。実行委員会には「普段入られない施設に気軽に行ける良い機会でした」「子どもが楽しんでいたので、来年も参加したいです」といった来場者からの感想が届きます。2025年のカルチャーナイトは、 7 月 25 日です。施設見学、職業体験、コンサート、ワークショップなど、実行委員会をはじめとする 97 の参加団体はそれぞれの専門分野や特色を活かした250以上のプログラムを用意しています。予約なしでも参加できるものが多く、いくつもの施設を巡ることができます。YouTubeカルチャーナイト公式チャンネルで公開するオンラインプログラムも、同日の午後 5 時から一斉配信し、 8 月 8 日正午まで公開します。毎年 2 万人が楽しみ、1400人が運営する札幌のカルチャーナイトを主催しているのは、産官学民で組織するカ 北海道立三岸好太郎美術館内での演奏会 夜の北海道立近代美術館を訪れた市民 「カルチャーナイト実施中」と表示する北海道警察本部 3 特集 札幌の短い夏を楽しむ特別な一夜「カルチャーナイト」を企画・運営する── 認定 NPO 法人カルチャーナイト北海道
ルチャーナイト実行委員会です。事務局として企画・運営の中核を担うのは、認定NPO法人カルチャーナイト北海道で、プログラムを実施する団体に所属する約1400人の運営スタッフ、約130人のボランティアスタッフを束ねます。例年、約 2 万人に上る来場者の年齢層は、子どもと、大人がほぼ半々です。子どもの保護者のほかにも、幼少期にカルチャーナイトを体験した世代が社会人になり、仕事帰りにカルチャーナイトへ立ち寄るスタイルも定着しつつあります。一晩で回れる施設は多くても 5 、 6 カ所で、中にはじっくり時間を掛けて楽しむプログラムもあります。そのため実行委員会には、「一日では回りきれない」「もっと時間を延長してほしい」という要望が多く寄せられます。ただ、一日限りの特別な夜であることもカルチャーナイトの魅力であり、「今年行けなかった所は、翌年に行けるよう、プログラムを提供する団体には継続して参加してもらいたいです」と畑瀬さんは言います。産官学民が地域ぐるみで連携して、子育て支援のイベントを 20 年以上継続していることが評価され、今年 2 月には住友生命の「第 18 回未来を強くする子育てプロジェクト」で、スミセイ未来賞を受賞しました。北海道にカルチャーナイトをカルチャーナイトは、もともと北欧発祥のイベントです。北欧には「ポテトホリデー(ジャガイモ休暇)」という、子どもがジャガイモの収穫を手伝うための秋休みが 10 月にあり、その直前にカルチャーナイトを開く文化が根付いているそうです。日本では例のなかったカルチャーナイトの開催を提唱したのは、2002年 7 月から2003年 5 月までの間、北海道副知事を務めた佐々木亮子さんです。もともと民間の経営コンサルタントだった佐々木さんが、1997年 10 月にデンマークのコペンハーゲンに出張した際、カルチャーナイトに遭遇します。いつか札幌でも開催したいという思いを温めていた時期に、民間出身の副知事として起用され、すぐに「北海道版カルチャーナイト」の開催に取り掛かります。道庁主導で準 北海道知事公館で「北加伊道カルタ」を楽しむ カルチャーナイト 2025 のチラシ 札幌市博物館活動センターの収蔵庫で学芸員が説明 白バイ試乗は人気のプログラム 第 26 号 Quarterly 4
もあります。中心街にある大手企業や官庁以外でも、より身近な場所でカルチャーナイトを楽しめるようになっています。さらに、実行委員会では今年 2 月に「カルチャーナイトのはじめかた講座」を初開催しました。カルチャーナイトに参加したい団体、ボランティアに協力してみたい人たち向けの講座で、実際に活動する関係者の声を聞く機会を設けた結果、 16 団体から新規の応募がありました。コロナ禍もオンラインで開催多くの市民や観光客に貴重な文化体験を提供してきたカルチャーナイトですが、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、開催が危ぶまれた2020年は、初の動画配信によるオンライン開催に踏み切りました。 52 の参加団体が事前に収録した 80 以上の動画プログラムを、 7 月 17 日 17 時から公式チャンネルで一斉配信し、メインステージとなる知事公館からは生配信で「カルチャーナイト2020ライブ」も届けました。「地域の魅力や価値を体感し、再発見する」というカルチャーナイトの価値を、現地に行かなくても提供する手法を確立したことで、施設開点を増やすことを目的としています。ある企業の担当者は「認知を広げることも大切ですが、来場者が満足してリピーターになってもらいたい」と話し、カルチャーナイトは自社を「知っている」から「好き」になってもらうチャンスと捉えています。来場者の満足度が高いプログラムには、翌年に友達を誘って一緒に訪れるという行動パターンが見られるそうです。実行委員会が実施する来場者アンケート結果によると、お土産などをもらえることに対する評価はさほど高くなく、日常とは異なる体験を求める傾向が顕著に表れています。参加団体は、こうした調査結果などを踏まえて、公開実験やコンサート、プロジェクションマッピングなど趣向を凝らしたプログラムづくりに励んでいます。ある企業は、入社 1 、 2 年目の若手社員でカルチャーナイトチームを結成し、自社の魅力を知ってもらうプログラムを企画立案させることを、人材育成の一環として位置付けているそうです。近年は、オフィスのセキュリティが厳しくなり、予約制の会場も増えてきた一方で、郊外の造園業の会社が、町内会と連携して、夏祭りのような形で広い敷地を開放している例備を進め、道教育委員会や札幌市、地元の放送局などもメンバーに加わり、実行委員会を立ち上げました。「ふだん見えないものが見られる、ふだん聞けないものが聞こえる、ふだん行けないところへ行ける、ふだん話せないことが話せる、北海道の短い夏の長い夜。」─これは、その時にまだ、多くの札幌市民が見たことのないカルチャーナイトを端的に表現するためにつくられたキャッチコピーです。2003年 7 月に開かれた第 1 回のカルチャーナイトは、札幌市中心部にある 20 カ所の施設を夜間開放し、 57 プログラムを実施したところ、約 2 万人の市民や観光客が訪れました。立ち上げ時には道庁などの行政機関が公共施設の夜間開放を後押ししましたが、現在は市民サークルから大企業までが横並びで参加しています。2006年には事務局をNPO法人化し、行政頼みにも商業主義にもない運営形態を維持しています。より深く知ってもらいたいカルチャーナイトに協力する企業・団体の多くは、CSR(企業の社会的責任)活動、地域住民との接 大勢の親子連れが順番待ち 北海道知事公館でコーラスグループが合唱 5 特集 札幌の短い夏を楽しむ特別な一夜「カルチャーナイト」を企画・運営する── 認定 NPO 法人カルチャーナイト北海道
放を再開した2022年以降もオンラインによるプログラムが定着し、一般市民を入れることができない施設でも内部を公開できるなど、プログラム数の増加につながりました。見守りなどに活躍するボランティアカルチャーナイトでは過去に一度も、大きな事件や事故は起きていません。子どもたちが安心して夜に出掛けられるように、参加施設の職員が細心の注意を払い、ボランティアのスタッフたちが周辺を巡回するなど、地域全体で見守っています。当日は地域をよく知る郵便局長会などに協力を仰ぎ、パトロールなどを行ってもらいます。また、カルチャーナイト参加団体のOB・OGたちも駐車場の誘導など運営の補助に活躍しています。事前準備にもボランティアの協力が欠かせません。事務局の常勤は、加賀千登世副理事長と畑瀬さんの 2 人だけなので、ボランティアスタッフが本業の合間に、 13 万部印刷するチラシの配布、地下鉄駅や学校など830カ所以上で行うポスターの掲出などをサポートしています。 1 日のために奔走する事務局認定NPO法人カルチャーナイト北海道の活動の大半は、たった 1 日のカルチャーナイト開催のために費やされるそうです。参加団体の募集に始まり、参加団体から企画書に基づくチラシの制作とウェブ用の各団体紹介ページの作成、開催 1 カ月前から市民に向けた情報をリリースします。並行して参加団体向けには安全対策などの注意事項を周知し、開催当日に必要なボランティアの派遣要請などに応じたマッチング作業も行います。カルチャーナイト終了後は、来場者アンケート結果などのデータを整理・分析して参加団体にフィードバックし、 10 月になると、翌年に向けた開催時期や企画などの検討が始まります。カルチャーナイト開催経費は、約680万円に上りますが、公的な資金には頼らず、ほとんどを寄付金で賄っています。企業・団体を訪問して協賛金を募っているほか、参加団体には、カルチャーナイト推進負担金を拠出してもらい、広告費や保険料に充てています。その一方、来場者は基本的に無料です。カルチャーナイト開催の安定した財源を確保するために、カルチャーナイトを楽しむ個人にも応援してもらおうと、毎月500円以上をクレジットカード決済で寄付する「マンスリーサポーター制度」を2024年に創設しました。このほか、着なくなった洋服や使わないブランド品などによる寄付も受け付けています。 6 月 26 日に開かれた参加団体担当者会議では 予想以上に来場者が集まった場合の対応策を検討するよう伝えられた 運営を陰で支えるボランティアスタッフ 「カルチャーナイト 2020 ライブ」で配信されたアイヌとフィンランドの民族楽器の演奏 ▶LIVE 第 26 号 Quarterly 6
お問い合わせ先認定NPO法人カルチャーナイト北海道〒060─0004札幌市中央区北4条西7丁目5番地緑苑第2ビル707号室☎011─797─8145電子メール office@culture-night.com HPアドレス https://culture-night.com/ 道内各地で開催されるカルチャーナイトカルチャーナイトの趣旨に共感し、北海道内各地では取り組みの輪が広がっています。函館市は2005年から、西にし興おこっぺ部村は2006年から、室蘭市は2012年から継続して開催しているほか、過去には夕張市、士別市、登別市、中なか標し津べつ町など約 20 市町村で開かれてきました。それぞれの地域ごとに実行委員会などが組織されており、カルチャーナイト北海道では、開催ノウハウなどの情報を提供するといった形で連携を図っています。「札幌とは違う苦労もあると思いますが、ずっと続けることは大変で、本当にすごいことです」と畑瀬さんは目を見張ります。「はこだてカルチャーナイト」は、函館商工会議所青年部が中心となり、夏の観光シーズン後の気候が穏やかな 9 月に開催しています。路面電車を何度でも乗り降りできる「市電ナイトラムチケット」の提供や無料シャトルバスの運行などもあり、2024年は延べ約 1 万 3 千人が約 30 会場を訪れました。コロナ禍は通常開催が困難となったため、非接触の「はこだてモバイルカルチャークイズラリー」を企画するなど、柔軟な運営によって事業の継続を図っています。道内では知られたカルチャーナイトですが、道外で開催している地域はありません。全国でもまれな取り組みのため、道外からも数多くの視察が訪れていますが、夜間の施設開放に対する理解と協力、来場者の安全確保などの難しさもあって、実現に至らないようです。持続するムーブメントにカルチャーナイトの前後には、実行委員会事務局の企画立案で、企業と連携して開催するプレイベントやポストイベントも行っています。2024年のプレイベントは、水産卸会社とのコラボによって「市場のお仕事とイクラ食べ比べ体験」を開催したところ、募集定員が 10 分ほどで埋まり、約100人のキャンセル待ちが発生しました。今年はカルチャーナイト当日に、企業単独で好評だった企画を実施します。今年のプレイベントは市内のホテルと共催で、コロナ禍に使っていて不用になったアクリル板のついたてを、「キラキラキーホルダー」に作り替える「アップサイクル」の体験イベントを実施します。アクリル板の切断などには工業高校の生徒が協力しており、一連の活動をストーリー仕立てにまとめ、アップサイクルの事例紹介としてYouTubeで発信する予定です。事務局ではこれからも、さまざまな企業・組織と連携した取り組みをさらに拡充させたいと考えています。山本理事長は「地域全体のエネルギーを結集し、開催しているのがカルチャーナイトです。自分たちの暮らすまちの成り立ちや文化、社会的課題などを次世代に伝える活動を市民理解の下、一つのイベントから持続的なムーブメントへと発展させたいですね」と語ります。 好評だった実行委員会企画のプレイベント はこだてカルチャーナイトの一コマ (函館商工会議所青年部提供) 7 特集 札幌の短い夏を楽しむ特別な一夜「カルチャーナイト」を企画・運営する── 認定 NPO 法人カルチャーナイト北海道
3 ブック・ストーリーズ本づくりのさきにあること─。2024年 6 月、国内 35 カ所目の国立公園に指定された日高山脈襟裳十勝国立公園について、ガイドブックでも、写真集でもない書籍をつくろうと、『北海道の脊梁日高山脈』は企画されました。日高山脈と深い関わりのある人々の物語にスポットを当てつつ、険しくも美しい日高山脈登山の魅力や日本一広大な国立公園の現状などを余すところなく伝えています。新聞記者時代から蓄積してきた資料、培ってきた人脈をフル活用しながら、自らも取材に奔走した編著者の黒川伸一さんに、本書に込めた思いを聞きました。(文・写真/片山健一取材日2025年 5 月 27 日) 『日高山脈襟 えり 裳 も 十 と 勝 かち 国立公園誕生 北海道の脊 せき 梁 りょう 日高山脈 』 書籍概要  日高山脈襟裳十勝国立公園の特異な地質や地形の成り立ちを、雄大な自然の姿に目を奪われる 約 300 枚の写真とともに、日高山脈登山の先駆的存在である北海道大学山岳部部員の紀行文のほ か、多くの命を奪った雪崩事故やヒグマ襲撃事故などの記録、四季折々の日高山脈を描き続け た画家・坂本直行さんの功績なども収録しています。A4 変型判、162 頁、オールカラー、ソフ トカバー、2025 年 5 月 共同文化社発行。価格:2,970 円(税込) ISBN:978-4-87739-420-2 本書お問い合わせ先  株式会社 共同文化社 札幌市中央区北 3 条東 5 丁目 電話 011-251-8078 FAX 011-232-8228 URL https://www.kyodo-bunkasha.net/ 道内書店をはじめ、Amazon、共同文化社サイトなどから購入できます。 日高山脈と人との関係を一冊に─ご自身の日高山脈との関わりと、本書での役割を聞かせてください。東北大学の学生時代に山岳部に所属して登山を始めた私が、最初に北海道を訪れたのは大学 1 年生の 3 月で、日高山脈の1839峰に登りました。その時の印象が非常に強く、大学を卒業し住むなら北海道と決心し、マスコミ志望だったので、北海道新聞社の記者となりました。 2 年前に新聞社を退職するまで、日高山脈など山ネタに関する記事を書く機会に恵まれ、将来的に何らかの形でまとめたいという思いもあって、特異な遭難事故の記録や山の写真などは基礎資料として集めていました。本書の編著者として依頼を受けた時、日高山脈に関するガイドブックや写真集は、既にたくさん出版されているので、今までにない本を作りたいと考えました。日高山脈のダイナミックな自然の成り立ちとともに、そこに関わる人々の物語を掘り下げるのが良いと考え、出版社の社長にも本の狙いを説明し、蓄積してきた資料を整理しながら、最新の要素も盛り込むため、現地取材を 10 回ぐらい重ねて、ワークノートに構想を練っていきました。日高山脈の登山史は、北海道大学山岳部が築いたと言っても過言ではないので、記者時代から取材でお世話になっていた北大山岳部のOB会「北大山の会」元会長で学生時代から日高に入ってこられた小泉章夫さんにも編集委員をお願いすることを了解いただき、編集委員会をスタートさせていただきました。手持ちになかった山と山さん行こう記録の写真や歴史的資料など、国立公園のエリアに含まれる自治体の情景など 【編著者】 日本山岳会北海道支部長  黒川 伸一 さん 本書のコンセプトなどを語る黒川さん 第 26 号 Quarterly 8
に大正時代後期に始まる登山によって、日高山脈の主稜線周辺の貴重な地形と美しい景観などが徐々に分かってきました。それから、わずか 1 世紀という短い期間には、とても濃密な人々の物語が数多くあります。本書では、今後の教訓として生かの写真を集めるため、多くの方にお世話になりました。日高山脈に刻まれたエピソードと人のドラマの数々が詰まった一冊になったと思います。日高山脈の美しさと自然の厳しさを伝える─どのようなコンセプトで本書を構成しましたか。導入部は、読み手を惹きつけるようにするのが良いと考え、出版社の編集担当者に相談した上で、これまで撮りためた写真と新聞社から購入する迫力ある空撮写真を生かして、日高山脈のルート開拓の感慨がほとばしる名文を空撮写真などとリンクさせる構成を考え、第 1 章は「パイオニアたちの感慨」としました。北大山岳部が創設されて間もない頃の部員 3 人が、それぞれ日高山脈に分け入り初踏破、初登頂を果たした時の喜びを記した約100年前の紀行文の一部です。どれも感動が如実に表れた、今読んでも心に響く美しい文章です。北大山岳部の部報などには掲載されていましたが、一般にはあまり知られていないと思い、美しい空撮写真をバックにこれらの美文を掲載しました。登山家らを魅了する日高山脈は、プレート同士がぶつかり合って、めくれ上がるように形成された山地で、長い時間軸で隆起した山肌を氷河が削り、カールやナイフリッジといった氷河地形が造られ、美しい稜線になっています。第 2 章「貴重な自然の恵み」では、山脈の形成過程について、日高山脈博物館(日高町)の東あずま豊とよ土と学芸員に出稿してもらい、とりわけ特異な地質や植生があるアポイ岳周辺の紹介には、元学芸員の田中マサヒト・アポイ岳ファンクラブ会長に協力を仰ぎました。東さんには特異な日高山脈全体の成り立ちをマクロ的に、田中さんにはその中でもさらに特殊なアポイ岳周辺の成り立ちと貴重さをミクロ的に書いてもらいました。日高山脈と人との関わりは、山の形成過程と比べると実は非常に短い時間軸です。南北140㌔の日高山脈は東西に幾重に連なり十勝地方と日高地方を分断していて、奥深い部分にはアイヌの人たちもほとんど立ち入ることができない険しい山並みでした。ロシアの侵攻に備え、江戸時代中期・寛政年間の1799年にようやく日高山脈南部の丘陵地帯を越える 2 つの山岳古道が完成します。さら 発刊に向け黒川さんがまとめたワークノートなど 北大山岳部の遭難事故を伝える新聞記事や沢田リーダーの遺書 9 Book Stories  本づくりのさきにあること─。
すためにも─という思いから、登山にまつわる 3 つの重大事故を取り上げ、ドキュメントとして整理しています。1940年のコイカクシュサツナイ岳の山頂直下の雪崩で北大山岳部の 8 人が亡くなった事故、1965年の札内川上流の雪崩で雪洞が埋まって北大山岳部の 6 人が亡くなり、リーダーの沢田義一さんが地形図裏に遺書を残していた話、1970年に福岡大学ワンダーフォーゲル同好会の 3 人がヒグマに襲撃されて亡くなった事故を掲載しました。また、北海道電力により水力発電用の電源開発が進められる中、工事中に 34 人が雪崩で亡くなるという北海道最悪の雪崩事故も起きています。第 3 章の「日高山脈百年ものがたり」では、 1 世紀余りの歴史の中に刻まれた、悲喜こもごもの物語を整理しました。第 4 章の「魅惑の登山フィールド」では、小泉さんら北大山の会の 3 人に日高山脈登山の魅力について寄稿してもらいました。米山悟さんには積雪期の日高山脈の面白さや北大山岳日高山脈のこれまでを知り未来につなぐ─本書を通じて伝えたいことは。2016年 8 月下旬には 4 つの台風が連続して北海道を通過し、広い範囲で被害が出ました。特に日高山脈周辺の被害はひどく、日にっ勝しょう峠の国道や林道などの復旧には時間がかかり、入山できない間に登山道が荒廃し、登れなくなったり、遠くなった山がいくつもあります。しかし、この事実は登山者以外には広く知られていません。日高山脈は、国定公園から国立公園に昇格した時、保護面積が約 2 ・ 4 倍に広がりました。国は、2030年までに国土の 30 ㌫以上を保全するという「 30 by 30 (サーティ・バイ・サーティ)」を目標に掲げ、公園の面積を拡張した経緯があります。国立公園内の登山道が利用できないほど荒れていることは、本州以南の国立公園や世界の国立公園を見ても、おそらくないでしょう。国策として面積を広げて国立公園にした以上、国が主導してきちんと維持・管理を進め、最低限の整備をすべきという主張を 1 ページですが盛り込みました。また、日高山脈にはアイヌ語地名が多く残されていることが特色の一つです。 1 世紀前、当時無名の山ばかりだった日高山脈の山に、北大山岳部の部員たちが入山する時は、水本文太郎さんをはじめとしたアイヌの案内人たちと一緒に登り、アイヌ語で山の名前を決めていきました。アイヌ語の地名を後世に残そうと取り組んだ北大山岳部の心意気も知ってもらいたいと思っています。雪に埋もれた雪洞で 4 日間生き延びながら、ヘッドランプの明かりをたよりに地形図の裏に記した北大山岳部の沢田さんの遺書や、福岡大の学生たちがヒグマと対峙した危機的状況の中で書いたメモも掲載しているので、日高山脈に関わる重大な事故の全容や、当事者の生の声も知ることができます。こうした様々なエピソードは、登山をする人には興味を深めながら読んでいただけるのではという期待を持っていますが、国立公園になって初めて興味を持った人でも、美しい写真は視覚的に楽しめるでしょうし、人物や出来事の物語は読み応えがある内容になったと思います。将来にわたり、さまざまな形で生かしてもらえればうれしいです。部の歩みなどを、夏の沢登りの楽しさなどは松原憲彦さんと小泉さんに書いてもらいました。第 5 章「山麓に残された記憶」で取り上げた坂本直行さんは、厳しい山登りを重ね、遭難もまじかに経験する一方で、日高山脈の麓に定住して原野を開墾し、その合間に山の絵を数多く残しました。日高山脈の美しさを絵で知らしめた“チョッコウさん”の功績は、断片的には知られていますが、釧くし路ろ生まれ、札幌育ちの直行さんが日高山脈にこだわった理由、製菓業の六花亭さん(帯広市)やアウトドア用具を製造・販売する秀岳荘さん(札幌市)との縁も知ってほしいと思いました。 書籍を手にする黒川さん 山岳画家・坂本直行さんの功績をつづっている 第 26 号 Quarterly 10
ほっか いどうの 本 このコーナーは北海道の出版社から発行された本を社員が読み紹介しております。お近くの書店にない場合は発行先へお問い合わせください。特記以外は税込価格です。 2022年 7 月に開催された当別町の亜麻まつりに著者が興味をひかれたことを経緯とし、丹念な資料収集と取材により北海道と亜麻の関わりを紹介する本書が刊行されました。亜麻などの麻は古来より布の材料で、エジプトのミイラは亜麻布をまとい、近代ヨーロッパでは高級なリネンが重宝されました。明治初頭に農業政策を要と位置づけた北海道開拓使は、外国から人材を登用し亜麻栽培を本格化します。やがて北海道製麻会社(帝国繊維の前身)の設立で産業化し、日清戦争以降に軍服などの需要が追い風となり発展します。札幌市北区の麻あさ生ぶ区域には広大な繊維工場がありました。地名に「麻」が含まれる由来です。名寄や富良野など道内各地にも製麻工場はありましたが、戦後急速に縮小しました。本書では、道内の亜麻に関する歴史などに加え、健康食品としての亜麻仁油、その価値を再発見した「現代のあまびと」たちの活躍も紹介され、新たな北海道産業の可能性が示されています。(システム管理部国安保)本書はNHK札幌放送局で炭鉱事故担当のアナウンサーをされていた著者による昭和 40 年代の記録となっており、三度書籍化を試みて、 40 年振りに掘り起こされた2025年、ついに刊行へと至った労作である。一度目は同局アナウンサー時代の1967年から1971年にかけて、炭鉱事故、石炭産業の終焉を取材した自身の取材メモをまとめるも、様々な理由から世に出ることはなかった。二度目は、1981年 10 月 16 日に 93 名もの犠牲者を出した北炭夕張新炭鉱のガス突出事故を取材し、十数年前にまとめた内容に加えて書き上げたものの、残念ながら叶わなかった。そして、ついに今回、多くの犠牲者を出した炭鉱事故の実情を日本の産業史の中にしっかりと残したいという強い思いが結実した。炭鉱で働く人々の本音や、事故発生時の報道する側の思いが、当事者の言葉で正確に記録されている。著者がこだわり続けた、石炭に命を捧げた方たち、日本のエネルギー政策の犠牲者たちへの思いが込められている。(北海道営業部石田みちよ)サブカルチャーは一般のカルチャーを凌駕する勢いだ。かつては冷遇されていた鉄道、モデルガン、お城、刀剣の類いは今や男女の別なく毎日コアなファンが専門サイトにアクセスしている。どんなものが注目されるか皆目不明なのである。本書は初めに戦前戦後の探偵小説を読み解き、そのことが当時の国民の陥る震災や戦禍の意識からの回避を目指そうとしたこと。また、谷崎潤一郎や芥川龍之介の小説にふれ、ある種のエロチシズムとしての『痴人の愛』や『歯車』の浴槽というサブカルチャーにも言及している。私が一番関心を持ったのは、『砂の器』(松本清張)からの考察で、自らの出自の隠ぺいやハンセン病患者らの世間からの封じ込めという差別を描き出していることである。『火垂るの墓』(野坂昭如)での言及はアニメ映画と小説を対比させ、空襲による人々の身近な死と短命なホタルの大量死を暗示したのである。「危機」ということを考え直す上での入門書として手元に置きたい。(資材・外注管理部藤原和茂)石炭挽歌978-4-909281-69-2NHK札幌放送局〈炭鉱事故〉担当アナウンサーの記録末利光著四六判264頁2530円寿郎社発行☎011・708・8565日本サブカルチャーと危機死と恐怖の表象史978-4-8329-3420-7押野武志他編著四六判264頁3960円北海道大学出版会発行☎011・747・2308その花可憐に色青し北海道亜麻物語978-4-87739-418-9齊藤俊彦編著A5判224頁2200円共同文化社発行☎011・251・8078 齊藤 俊彦 共同文化社 北海道亜麻物語 その花可憐に色青し 11 ほっかいどうの本 11
北海道キャンプ場&コテージガイド2025─ 26 978-4-86721-160-1花岡俊吾著A5変型判320頁1980円決定版北海道道の駅ガイド2025─ 26 978-4-86721-161-8花岡俊吾著A5変型判272頁1980円カムイの天空宇宙の聲(そらのこえ)978-4-86721-158-8山本純一著A4判 96 頁3850円新夏山ガイド 4 日高山脈・夕張山地978-4-86721-159-5長谷川哲・谷水亨著B6判280頁2640円北海道夜汽車の記憶978-4-86721-162-5番匠克久著B5判 96 頁1650円ビジュアル図鑑北海道の鳥978-4-86721-163-2大橋弘一著A5判256頁2750円お隣の非正規公務員地域を変える、北海道から変える978-4-86721-165-6川村雅則編著A5判172頁1540円道新プラス道新受験情報2026大学・短大特集16747-05北海道新聞社編B5判250頁990円───北海道新聞社 060 ─ 8711 札幌市中央区大通東 4 ─ 1 ☎011・210・5744東アジアのアクティブ・エイジングサードエイジを生きる978-4-8329-6905-6櫻井義秀・清水香基編著A5判332頁6820円オーストラリア文学の地平「主体の消滅」を問う978-4-8329-6906-3有満保江著四六判288頁4950円北海道の蝶の生活史図鑑蝶好きの 12 か月978-4-8329-1414-8永盛俊行著B5判216頁5720円───北海道大学出版会 060 ─ 0809 札幌市北区北 9 条西 8 丁目☎011・747・2308人を育てる農場設計978-4-86453-106-1NPO法人オルタナティブ・アグリサポート・プロジェクト監修B5判108頁1980円───北海道協同組合通信社 060 ─ 0005 札幌市中央区北 5 条西 14 丁目☎011・209・1003シカバン札幌〈映画〉生活史1975─2024978-4-909281-70-8門脇繁著四六判364頁2420円───寿郎社 060 ─ 0807 札幌市北区北 7 条西 2 丁目☎011・708・8565小樽市立病院ガイドブック978-4-87739-421-9小樽市立病院編著A4判160頁1320円北海道の脊梁日高山脈978-4-87739-420-2『北海道の脊梁日高山脈』編集委員会編著A4変型判192頁2970円2025年度版できる合格給水過去 6 年問題集978-4-87739-424-0諏訪公監修A5判416頁3850円人を大切にする経営学用語事典978-4-87739-422-6一般社団法人人を大切にする経営学会編著A5判784頁8800円爪句@探鳥里&フィールド978-4-87739-423-3青木曲直・菊地美佳子著100㍉× 74 ㍉232頁500円───共同文化社 060 ─ 0033 札幌市中央区北 3 条東 5 丁目☎011・251・8078GEM木版画会会員札幌市在住 表 紙 の ことば 橋梁の記憶金山道子木版画 44 ㌢× 54 ㌢タウシュベツとはアイヌ語で「樺の木が多い川」の意。その地に大正 14 年から翌年にかけて帯広~上士幌間で開業し、昭和 14 年には十勝三股まで伸びた士幌線(当時は国鉄)。昭和 30 年に糠平ダムが完成し、ルートは迂回となり、残された鉄道橋は湖面に佇む「幻の橋」タウシュベツ川橋梁に……。水位が上がる 8 ~ 10 月頃は水没し、冬には凍った湖面を破って姿を見せます。その繰り返しで風化が進み、現在の 11 連続アーチが見られるのも後わずかと言われています。新刊情報書名の下の数字は日本図書コード(ISBN)及び雑誌コード。特記以外は税込価格。お近くの書店にない場合は発行先へお問い合わせください。 Quarterly 北海道の印刷出版文化情報誌[季刊アイワード]第 26 号(通巻37 2 号)2025年 7 月 15 日発行編集■季刊アイワード編集委員会発行■株式会社アイワード〒 060 - 0033 札幌市中央区北 3 条東 5 丁目 5 番地 91 ☎011・241・9341 ※季刊アイワードのバックナンバーを 弊社ホームページよりご覧いただけます。 URL https://iword.co.jp